タスク管理のおさえどころ (20210625)
code:marotext210625.md
タスク管理という言葉が2000年前後から世間に広まり、Web技術やスマホの普及に合わせて様々なタスク管理ツールやノウハウがいろいろな場で紹介されています。
当初は仕事術であったタスク管理がプライベートも区別なく使う方向に広がっていきました。そしてデジタルツールはいろいろな連携や自動化など魅力的な機能やデザインにあふれ、どれを選ぶか迷ってしまうくらいです。
一方で、特にデジタルツールでは機能の改廃やサービス停止などで新たなツールを探し求めるなんていうことも増えました。
便利になった反面、タスク管理ツールに翻弄されているような感じもします。
さらに世の中的にはより生産性を上げていこう・成長していこうという方向に促す動きも増えてきたようにも思います。
これらの動きはなんだか追い立てられ、自分には少し息切れしてしまう感じでした。確かにより成長していきたいという気持ちはあります。ただ自分の場合、タスク管理をすることで作った時間をやることで埋めるようになってしまい周りを見る余裕を失いがちでした。自分なりにどうしたらいいのかを考えつつ試行錯誤して、ここを抑えておけばまぁ大丈夫と思えることがなんとなく分かってきました。それが次の3つのポイントです。
① プロジェクトとタスクを親子で管理する
② フォーカスする範囲を決める
③ タスク管理ツールを手放す
上記のポイントは、巷で紹介されるタスク管理ツールの使い方などとは違いタスク管理には直接関係ないようにも見えます。しかし自分にとってはタスク管理ツールを生かすためには必要なポイントであると思っています。
次から、そのポイントを説明していきます。
タスク管理ツールを使い始めてしばらくすると、始めた時と比べなんだか思うように進まなくなることがあると思います。いろいろ原因はあると思いますが、もしかしたらタスク管理ツールにあるタスクと思っていることが実はタスクではないのが原因かもしれません。
タスクとは、「何かを達成・維持するための実際にとる行動」のことです。タスクと思ってタスク管理ツールで管理していることがタスクではないかもしれないというのはどういうことでしょう?
タスク整理術として知られるGTDでは、頭の中のにある気になることを書き出すことが最初のステップとしてあげられています。この時、頭の中から気になることを書き出したものが全てタスクであるとは限りません。なぜなら瞬発的にメモを取るため単語的なメモ書きであったり、誰かからきたメールのそのものだったり、申込書だったりと実際にとることのできる具体的な行動の形になっていないことが多いからです。そして意外と集めたものをそのままタスク管理ツールに放りんでしまってはいないでしょうか。
書かれていることを見れば想起できるから問題ないと思われるかもしれませんが、それはそのたびにこれはどういうものなのかと判断をする必要があるということでもあります。
そしてもう一つ、書き出した気になることがタスクになっていないというのは、気になること(=関心があること)は状態であり行動ではないからです。
たとえば、部屋が散らかっている時は、その部屋が片付いていない状態が気になることの対象です。掃除をしていないことが直接の気になることではありません。この場合、部屋が片付いていないから掃除をしようと思い、「掃除をする」をタスクとして書き出していることもあるでしょう。しかし、タスクのようにみえるが実は状態を書き出していることも結構多いのではないでしょうか。「健康に過ごす」とか「TOEICで700点をとる」などは、望んでいる状態であってタスクではありません。食事制限をするのか運動するのか健康診断にいくのか、そしてそれをどの程度行うのかという具体的な行動=タスクになっていないからです。
だからこそ何か進めたいなと思っていることに対しては、望んでいる状態なのか実際にとる行動なのかをはっきり区別しておくことが大事です。ちなみにGTDではこの望んでいる状態をプロジェクトと定義しています。
タスク管理で扱うものは「タスク」であり、仕事にしろプライベートにしろ「行動=Do」に焦点が当たっています。そしてタスクをしっかり管理し適切なタイミングで行動を促すということがタスク管理の目的の一つだと思います。
しかしながら、管理していたはずのタスクが実はプロジェクト=望んでいる状態に繋がっていなかったということがあるのではないでしょうか?
タスク管理の管理対象であるタスクは、賞味期限がとても短いと思っています。
情報のやり取りが盛んであればあるほど、状況が二転三転と目まぐるしく変わることがあります。そのためタスクを考えたその時点ではプロジェクト(=望んでいる状態)に至るために必要であったものが、今となってみると状況が変わってタスクがプロジェクトに繋がらなくなっているということがあります。というのもタスクの有効性は「プロジェクト(=望んでいる状態)」と「状況」によって決まるため、プロジェクトが変わらなくても状況が変わればタスクの有効性が変化してしまうからです。
たとえば今東京にいて「明日15時までに京都に着く」というプロジェクトに対して、「新幹線で移動する」というタスクを実行しようとしても状況が変わって架線事故により新幹線の運休となれば「新幹線で移動する」というタスクに有効性はありません。
外的要因や環境によって変化する「状況」はコントロールすることが困難ですから、管理すべきはすぐには変化が起きない「プロジェクト」の方になります。そしてタスクの有効性が低くなった時に、もしプロジェクトを持っていなければ適切なタスクに置き換えることが難しくなります。
逆にプロジェクトだけでは、行動を起こそうと思うたびにいちいち判断して行動を決めなくていけません。また事前に想定していればできた準備がないばかりに行動の選択肢を狭めてしまうということもあります。
だからこそ、プロジェクトとタスクを親子関係の状態にしておくことがタスク管理を扱う上で重要になります。そして適度な頻度でタスクの賞味期限が切れていないかどうかを確かめることも大事で、これがタスク管理のレビューにあたるものになります。
ここまで「タスク=行動=Do」「プロジェクト=望んでいる状態=目的=Be」について親子関係で管理した方が良いということを話してきましたが、プロジェクトとタスクを扱う際にもう一つ大事なことがあります。
それはタスクやプロジェクトの粒度を厳密に揃えすぎないことです。
たとえば牛乳を買うというタスクとイベントを開催するというタスクは具体性の違いから大きさが異なると感じると思います。このようなタスクやプロジェクトの大きさがここでいう粒度の違いです。
人それぞれ得意なことや苦手なこと、職位による裁量の大きさ、役割などが違います。
たとえば、冷蔵庫にあるもので料理が作れる人にとっては野菜炒めの細かなレシピはかえって扱いづらいものになります。
得意な分野というのは判断の自動化ができているため抽象度を上げることができます。
一方、あまり得意でない分野や初めてのことは判断基準がないため、より具体な行動まで落とし込んであげる方がイメージしやすくスムーズに進めることができるでしょう。
裁量があって判断をすることができる場合と裁量が小さく上司に判断を仰ぐ必要がある場合もタスクの粒度は異なります。
プロジェクトに関しても目標は階層性をもっているため大きなプロジェクトの中に小さなプロジェクトというものを考えることはできます。ここも粒度が揃いにくい部分ですが、目標をどこに設定するかであったり裁量によってその粒度は変わります。
だからこそ人それぞれ扱いやすい粒度であればよく、きちんと揃える必要はありません。
そしてうまくいかないなと感じたら途中で粒度を細かく具体に落とすことも、逆に抽象度を上げて大きく捉えることも良いと思います。
大事なのは粒度を揃えることに囚われず、自分の扱いやすい粒度にしておくことです。
管理というと全てに注意を払い規律正しく状態を維持するというイメージがあります。もちろん管理というからには決めた規律のもとで状態を整える必要があり、だからこそ行動について信頼できるシステムとしてのタスク管理になります。
ただこれは全てのタスクを常時監視するというような話とは違います。
たとえば入学式の集合記念写真のように写っているすべての人にピントが合っているパンフォーカスという写真の撮り方があります。
すべての人にピントが合っているため、均質に多くの情報を得ることができるともいえます。しかし、情報量が多いためにかえってどこに注目すべきかわかりにくいともいえます。
より詳細を知るために見える情報量を増やした結果、皮肉にもわかりにくくなってしまうということが起きているわけです。
このパンフォーカスというのは写真独自の表現です。一方、人間の視覚は対象にピントを合わせてその周囲はボケた状態で認識します。
全てにピントが合うと情報量が多すぎるため脳が周りの情報の解像度を落として意識する範囲を意図的に狭めているのかもしれません。同様にタスク管理でもすべてのタスクに注意を払うのではなく、現在に近いものにフォーカスし現在から未来へ離れるにつれて段々と周りをぼかした形で管理した方が結果的に情報量が制約され集中しやすくなります。
運転席から見るクルマのメーターやカーナビなど必要な情報を大きく、細かい情報は小さくするかあえて見せないようにして、意識する部分を限定するようにデザインされているのと同じような感覚です。
具体的にタスク管理ではどのようにフォーカスを当てるのがよいのでしょう。これは人それぞれによりますし、認知の個性によっても変わると思います。大事なのはどこにフォーカスしているかをはっきりさせることです。
タスクの場合、今日一日で行うことは明確にはっきりとフォーカスしておいた方がいいでしょう。
もっと忙しい人ならば、9〜12時、12〜15時といった時間帯でフォーカスするのもいいかもしれません。
今日以外のタスクはどうするかというと、もう少し幅を持たせて今週のタスクという形でひとまとめにして意識しておくのがよいと思います。ポイントは今日と同じ解像度にしないということです。
今週中のタスク群から毎日今日のタスクを切り出して、1週間で今週のタスクを崩していくような感じで実行していきます。
やることの中には、明確に実行日時の決まっていないタスクと違い、ミーティングのように時間が決まっているスケジュールがあります。
スケジュールそのものはその日その時に行えばいいのですが、スケジュールに関連したタスク(例えば、会場を予約するなど)は、スケジュールを意識して実行する必要があります。
スケジュールの場合、普段でもカレンダーで月表示や週表示など自分の認知したい感覚に合わせた表示ととることがあると思います。同じようにタスク管理の中でも少し先を意識できる程度にしておくのが良いでしょう。
具体的には、スケジュールを仮に忘れていたとしても1週間前ならたいてい挽回できることが多いので、今週のスケジュールは時刻まで詳細に、来週のスケジュールは時刻なしで大まかに捉えるぐらいがいいかなとちょうど良いかなと思います。
気になることを集めてきてタスク管理をする時に、今週は進めなくても大丈夫だなぁと思った行動はあえてタスクまで落とし込まずにそのままにしておくことも意識から外すのは有効です。
プロジェクトは最初から最後までの行動を具体的にする必要はなく、最終ゴールと(無理に作り出す必要はないですが)中間目標と直近のタスクがあれば必要十分です。
もちろん事前に計画することはリスク回避として有効だったりしますが、「BeとDoを親子で管理する」でもお話ししたように状況変われば必要な行動も変わってきます。
大事なのは望ましい状態=Beをきちんと残しておくことであり、直近に行動を起こさないのであれば再び検討するまでそのままにしておいたとしても大丈夫です。
可能であれば、次の一手となるタスクが明らかであると突発的な対応を求められても対処しやすくはなりますが、優先すべきは今週動かしたいプロジェクトの方です。
ここでも意識したいことは詳細まで落とし込み、フォーカスしないことはざっくりとした状態にすることで視界から外して適切な情報量に留めるようにしています。
タスク管理をするのは、忘れずに行うためと言われますが、それは忘れてもいいようにするということでもあります。
忘れるというよりも今は邪魔になってしまうから意識の外に置くという感じでしょうか。
意識の外におきたいので実行する時には見えないようにしたりぼかすような仕組みを作っておくのが大事だと思います。
視覚に入るとどうしても気になってしまうこともあります。
全てはそこにあるがあえて見えないようにするというのはタスク管理を上手く使うためのポイントの1つです。
タスク管理は、意識する範囲において「どのタイミングで何をやるのか?」、「必要なものは何か?」、「どこに移動するのか?」、「どのようなやり方で行うのか?」、「どんなふうに過ごしたい」というイメージを詳細に至るまで把握して理解し対応するために必要なものだと思っています。
それはあたかも今日を演じるための「台本」作りのようなものです。
台本があるからどのように進めていくのかがわかりますし、用意すべきものや想定しておいた方が良いことなどもわかります。
想定することで「もし」という状況での選択肢を考えることができるかもしれません。
細かいタスク管理は余裕がなく疲れそうというように思われますが、逆に行き当たりばったりでは準備がないために選択できる行動が少なくなることもあります。たとえば急に暑くなり飲み物を用意することになった場合、クレジットカードしかなければ自販機では飲み物を買えないのでお店を探す必要があります。今日は外出だから少額の現金を持っておいた方が良いなと想定できるのも事前に何をするのかしたいのかを明らかにしているからといえます。
台本を作るというのは、想定して動くために必要なガイドラインであり選択肢を増やすための準備でもあります。
演技でも舞台でも台本というのは本番では見ることはありません。
同じように自分はタスクを実行する本番では台本であるタスク管理を手放します。
いちいち台本を見ていたらリズムが崩れてしまうからです。
事前に想定した通りに行ったからといって成果が出るとは限りません。さらに想定外の出来事などたくさんあります。電話やメールの他にも、誰かに話しかけられ相談を持ちかけられたり、以前提出した報告書について上司から質問があったりなどなど…。それだけではなく、タスクを行なっていて想定外の結果となった時というものもあります。
もちろん厳格なルールのように流れを守り、外乱となるようなノイズは極力排除し、想定外の結果は再検討課題として新たなタスクとして新規登録し、粛々と当初描いた成果を残していくというやり方もあります。
しかしあえてそうはせず、タスク管理を「台本」という位置付けで扱い、想定外のことにはアドリブを入れつつ対応していってます。そしてしっかりと作った「台本」があるのですから、あれっと思った時は見れば良いのです。
複数人が関わる仕事をしている以上は、突然の問い合わせなどは避けられません。また、環境や状況の変化というのは一人で仕事している人でも当てはまります。これらの変化に対してどう対応するかはどんな時でも課題になります。
「突発の電話の対応で時間とられてしまって間に合わない」「上司の無駄話のせいで会議資料ができなかった」など想定外のことで迷惑を被ったことはあると思います。
一方で、「当初描いた結果ではないことから新たな発見をする」「相談受けたことから思いも寄らない縁ができた」なども想定外から起きた面白さです。
ただ、何も準備しないために起きる「想定外」と綿密に準備した上で起きる「想定外」は全く違います。想定外は、事前に準備し想定を行なったからこそ生まれるもので、何も準備せずに起きたことは想定外ではなく準備不足です。準備不足にならないようにするには、やはり「台本=タスク管理」が有効です。
膨大なやることを整理し、把握できるようにフォーカスする範囲を決め、さらに綿密な流れを意識した台本を作り、そしてそれをあえて見ずに実行する。
「想定外」はどちらに転ぶか分かりません。無駄にも面白くもなります。だからこそそれを受け入れる「余白」を作りたいと思っていますし、「余白」はしっかりした台本があるからこそ作り出せるものだとも思っています。
ここで紹介したのはタスク管理を行う際のポイントであり、タスク管理ツールの具体的な使い方ではないため即効性のようなものはありません。そして紹介したポイントそのものは生産性を飛躍的に上げるようなものでは無く、むしろどこか少し手を抜いてスキマ作り出すようなものです。タスク管理を突き詰めたい人には少し拍子抜けした内容かもしれません。
自分は仕事にしてもプライベートにしてもこの1回に全てをかける野球でいえば夏の甲子園のようなものでは無く、年間何試合もあるプロ野球のリーグ戦のようなものだと思っています。長い間パフォーマンスを出し続けるために、リズムよく休息をいれ区切りをつけて臨んでいきたいです。
自分のようにどうしても行動しがちであればタスク管理のポイントをざっくり捉えた上で逆にどのように休息を取るか(レスト管理)を考えてみてもいいかと思います。逆に何かしないと休みがちであればどのように行動するか(タスク管理)をもっと突き詰めてみても良いかもしれません。
タスク管理は仕事や生活をサポートするものであり、何が必要かは人それぞれ違います。ちょっとしたサポートがあることで、モノゴトの見え方や捉え方がまるっきり変わるということもあります。
ここで自分が最も伝えたかったことは大きくいえば「自分にどんなサポートがあればいいのかを考えるというのは、ちょっと楽しい」ということです。
骨子
① タスクとプロジェクトを対にすること←②整理する中身
② 意識する範囲を狭くすること←③のために
③ タスク管理に縛られすぎないこと←ここが重要
タスク管理の対象はタスクだけれど、タスクは変化しやすいので注意が必要→①
保管という意味では、タスクではなくプロジェクトの方が大事。
タスク管理の目的は、実行を促すこと。その方法は、「整理すること」を通じて、ストーリー化すること。
整理する時に全部はいっぺんに整理できない。整理する範囲を決める→②
実行に想定外はつきもの。想定外を受け入れるには、事前に決めたストーリーに縛られすぎないこと。
タスク管理の役目は事前に整理しておくこと(前もって考えておくこと)であって、実行時にトレースすることでない。
あくまでガイドラインとしての役割。効果が出るとすがりたくなるだろうけど、あえて手放す。
むしろ事前に準備するために使うのみ。
タスク管理の目的を多くしすぎない。目的を一つに絞るとしたら何か?→「その日の事前準備」